学びを「定着」させ「次に活かす」!中学校でのテクノロジー活用「振り返り」支援
学びを「定着」させ「次に活かす」!中学校でのテクノロジー活用「振り返り」支援
日々の授業、生徒指導、校務と、中学校の先生方は常に時間に追われています。そんな中で、生徒の学びをより確かなものにし、次へとつなげるための「振り返り」活動に、どれだけ時間をかけられているでしょうか。形式的なものになってしまったり、生徒がその重要性を感じにくかったり、といった課題を感じる先生もいらっしゃるかもしれません。
本稿では、多忙な中学校教員の方々に向けて、テクノロジーを活用することで、生徒の「振り返り」活動をより効果的かつ効率的に支援し、学びを「定着」させ「次に活かす」力を育む方法をご紹介します。
なぜ「振り返り」が重要なのか?テクノロジーがどう貢献できるか
授業の終わりに「今日の学びで分かったことや考えたことを書きましょう」という活動は多くの学校で行われています。これは、学習内容を定着させるだけでなく、生徒自身が自分の理解度や思考プロセスを把握し、次の学習への課題を見つけるための重要なプロセスです。これを「メタ認知」と呼びます。
しかし、紙のノートや短い口頭発表だけでは、一人ひとりの生徒の深い思考を引き出したり、その記録を継続的に追跡・活用したりすることには限界があります。また、先生方が個々の生徒の振り返りを詳細に確認し、フィードバックすることも、時間的に大きな負担となります。
ここでテクノロジーが力を発揮します。デジタルツールを活用することで、振り返り活動は以下のように進化します。
- 記録と蓄積の容易さ: テキストだけでなく、画像や動画、音声での記録も可能になり、生徒は多様な方法で表現できます。これらの記録は自動的に蓄積され、後で見返すことが容易になります。
- 共有と協働: 個人だけでなく、グループでの振り返りや、クラス全体でのアイデア共有がスムーズに行えます。他の生徒の考えに触れることで、新たな視点や気づきを得られます。
- 可視化と分析: 思考プロセスや理解度を視覚的に表現するツールを活用したり、先生が生徒の回答傾向をまとめて把握したりすることが可能になります。
- 個別最適なフィードバック: 生徒のデジタル記録を元に、一人ひとりの状況に応じた具体的なフィードバックを効率的に行えます。
具体的なテクノロジー活用ツールと手法
多忙な中学校教員でも比較的導入しやすく、振り返り支援に役立つツールと、その活用例をいくつかご紹介します。すでに学校で導入されているツールもあるかもしれません。
1. シンプルなテキスト記録・共有ツール
- ツール例: Google Classroom、Microsoft Teams、校内グループウェアの共有機能、NotePMなどの情報共有ツール
- 活用例:
- 授業の最後に、今日の学びで一番印象に残ったこと、難しかったこと、疑問点などを、クラスの共有スペースにテキストで投稿してもらいます。
- グループワーク後の振り返りを、グループごとに専用のスレッドやページに記録してもらいます。
- 先生は投稿された内容を一覧で確認し、生徒の理解度や疑問点の傾向を把握できます。全体への補足説明や、個別のコメントでフィードバックを行います。
2. 付箋・カード形式でのアイデア共有ツール
- ツール例: Padlet、Miro、Jamboard
- 活用例:
- 授業のテーマや問いに対する考えを、デジタル付箋としてボード上に自由に投稿してもらいます。「今日の授業で『なるほど!』と思ったこと」「もっと詳しく知りたいこと」といったお題を提示するのも良いでしょう。
- 他の生徒の付箋にコメントしたり、「いいね」をつけたりすることで、相互の学びを深めます。
- 先生は投稿された付箋を整理したり、関連するものをまとめたりして、生徒の思考プロセスをクラス全体で共有できます。
3. アンケート・フォーム形式での構造化された振り返り
- ツール例: Google Forms、Microsoft Forms
- 活用例:
- 事前に「今日の目標は達成できたか(記述式)」「授業内容の理解度(5段階評価)」「次回学びたいこと(選択式)」など、振り返りの項目を設定したフォームを作成します。
- 生徒は授業後にフォームに回答します。短時間で構造化された振り返りが可能です。
- 先生は回答結果を自動集計できるため、クラス全体の理解度や課題を定量的に把握しやすくなります。記述式の回答からは、生徒一人ひとりの思考の深さを読み取ることができます。
4. デジタルポートフォリオ
- ツール例: Google Classroomの課題機能、Microsoft Teamsの課題機能、ロイロノート・スクールなどの授業支援ツール、Classi、Studylogなど
- 活用例:
- 定期的に、特定の単元やプロジェクトに関する学びの成果物(レポート、発表資料、作品など)とともに、生徒自身の言葉による振り返り(なぜそのように考えたのか、苦労した点、次に活かしたいことなど)をまとめて提出してもらいます。
- 学期末や年度末に、ポートフォリオ全体を見返しながら、自身の成長を実感したり、今後の目標を設定したりする活動を行います。
- 先生は生徒の学びのプロセスや内省を継続的に把握し、面談等での個別指導に役立てることができます。
中学校現場での具体的な活用事例(架空)
ここでは、ある中学校での具体的な授業シーンを例に、テクノロジーを活用した振り返りの様子をご紹介します。
事例1:理科の実験後、考察を深める振り返り(ツール例:PadletとGoogle Forms)
〇〇中学校の2年理科の授業。水溶液の性質に関する実験を行いました。実験後、生徒たちはまずグループで、実験で分かったことや気づきをPadletのボードにデジタル付箋として貼り出しました。「色の変化が予想と違った」「混ぜる量で反応が変わった」など、様々な声が集まります。先生はボードを全体に提示し、似たような気づきをまとめるなどして、クラス全体で共有しました。
次に、個人でGoogle Formsの振り返りシートに回答します。シートには「実験の目的は理解できたか(はい/いいえ)」「実験結果から分かったこと(記述)」「考察として最も重要だと考えられること(選択式)」「今回の実験で難しかった点や、さらに探究したいこと(記述)」といった項目があります。生徒は他グループやクラス全体の気づきも参考にしながら、自身の考察を深め、記入しました。
先生はFormsの回答を一覧で確認し、理解が不十分な生徒には個別にコメントを返したり、特に興味深い考察をした生徒を次回の授業で紹介したりしました。Padletでの多様な気づきの共有と、Formsでの構造化された内省を組み合わせることで、生徒は多角的に学びを振り返り、科学的な思考を深めることができました。
事例2:国語のディスカッション後、自己評価と相互評価を含めた振り返り(ツール例:Microsoft TeamsのチャネルとForms)
△△中学校の3年国語の授業では、ある文学作品についてグループでディスカッションを行いました。ディスカッション後、各グループはMicrosoft Teamsのグループチャネル内で、話し合いの内容やそこで出た意見について振り返りの投稿をしました。「〇〇さんの意見を聞いて、新しい視点を得られた」「自分の考えをうまく言葉にできなかった」「もっと△△について話し合いたかった」など、個々の率直な感想が共有されます。
その後、先生がFormsで作成した振り返り兼自己評価・相互評価シートに回答します。シートには「ディスカッションへの自身の貢献度(自己評価、5段階)」「最も貢献度が高かったと思うグループメンバー(選択式、理由記述)」「ディスカッション全体を通しての学び(記述)」「今回の経験を今後どう活かしたいか(記述)」といった項目が含まれています。
先生はこれらの振り返りを見ることで、生徒一人ひとりの活動への主体性や、他者との関わりの中で得た学び、今後の意欲を把握できました。特に相互評価の記述は、生徒がお互いの良い点や頑張りを具体的に認識する機会となり、クラスの肯定的な人間関係を育むことにもつながりました。
導入の際の注意点とステップ
テクノロジーを活用した振り返り支援を始めるにあたり、多忙な先生方が戸惑うことや、押さえておきたい点があります。
- スモールスタートを心がける: 最初から全ての授業で完璧な振り返りを実施しようとせず、特定の単元やクラス、あるいは週に一度など、できる範囲で試してみましょう。まずはフォーム形式の簡単な振り返りから始めるのがおすすめです。
- 既存ツールを活用する: 新しいツールを導入するよりも、すでに学校で利用可能なグループウェアや授業支援ツールの機能を活用できないか検討しましょう。生徒も慣れているツールの方がスムーズに移行できます。
- 生徒への丁寧な説明: なぜ振り返りを行うのか、テクノロジーを使うことで何ができるようになるのかを、生徒に分かりやすく伝えましょう。単なる作業としてではなく、自身の成長のための活動として捉えてもらうことが重要です。
- ツールの選定は目的に合わせて: どのような力を生徒に付けさせたいのか(思考の可視化、深い内省、共有、自己評価など)を明確にし、その目的に合ったツールを選びましょう。
- 技術的なサポート体制の確認: 困ったときに誰に聞けば良いのか、学校内のサポート体制を確認しておきましょう。同僚の先生と情報交換するのも有効です。
テクノロジー活用で期待される効果
テクノロジーを上手に活用した振り返り支援は、生徒と先生双方に多くのメリットをもたらします。
生徒にとって:
- 学習内容の定着と構造化: 学んだことを自分の言葉でまとめ、記録することで、記憶が定着しやすくなります。
- メタ認知力の向上: 自分の理解度や思考プロセスを客観的に捉え、強みや課題を認識する力が育まれます。
- 主体的な学びへの意欲向上: 自身の成長を実感し、次の学習への目標を立てることで、学びへのモチベーションが高まります。
- 表現力の向上: テキスト以外の多様な方法で思考を表現するスキルが身につきます。
先生にとって:
- 生徒の理解度・思考プロセスの効率的な把握: 個々の生徒の状況やクラス全体の傾向を、短時間で把握しやすくなります。
- 個別最適な指導への示唆: 生徒の振り返りから得られた情報を元に、一人ひとりに合った声かけや指導を行いやすくなります。
- 授業改善へのヒント: 多くの生徒が疑問に感じている点や、興味関心が高い点が明らかになり、次回の授業や指導計画に活かせます。
- 評価の質の向上: テストの点数だけではない、生徒の学びのプロセスや内省を評価に反映させるための材料が得られます。
まとめ
中学校における生徒の「振り返り」活動は、学習内容の定着だけでなく、生徒が自らの学びをデザインし、成長していくための重要なステップです。テクノロジーを適切に活用することで、この「振り返り」活動をより効果的かつ効率的に行うことが可能になります。
多忙な日々の中で新しい取り組みを始めるのは大変なことと感じるかもしれませんが、まずは一つの授業や一つのクラスから、小さなステップで試してみてはいかがでしょうか。今回ご紹介したツールや手法が、先生方の「働き方改革」と、生徒の「学びの質の向上」の両立を支援する一助となれば幸いです。
これからも「エデュテック最前線レポート」では、教育現場に役立つテクノロジー活用情報をお届けしてまいります。